LOGIN時は少し遡り、場面はミーナとイフリークの国民達に変わる。
現在、彼女らはティラーデザートとは別の場所で窮地に立たされていた。 大量の悪魔達が周囲を取り囲み、エミルと騎士団の人達が応戦している。 それを何もできないまま只々見ているだけのミーナとイフリークの国民達。 国民の中には、騎士達が守らず心臓を取られてしまう者もいた。 何故、この様な事になったのか。どうしてティラーデザートから離れた場所にいるのか。 現在に至るまで更に30分程、時間を遡る。 シルフを目指し、猛暑の中を歩き続けるイフリークの国民達は途中で大きなクレーターを発見した。 「何だ、この大きなクレーターは。隕石でも落ちたのか?」 「さあ?確かに人間にこんな事出来るわけないよな。」 ここはちょうどグレンとカイルがレヴィアタンと戦っていた場所だった。 ここまで来るのにかなりの時間はかかったが、あと少しでシルフに着くとこの段階では殆どの人がそう思っていた。 すると1人の騎士が何かに気づいた。 「おい、あのクレーターの真ん中に誰かいるぞ?」 1人の騎士がそう言ってクレーターの中を覗き込むと、そこには灰色の薄汚れたターバンを全身に覆い被った人がいた。 「こんなところに人?声かけてみるか?」 「いや、迂闊に近寄るのは危険だ。俺が近くまで行ってみる。」 そう言って1人の騎士がクレーターによって出来た砂の坂をお尻で滑りながら降りた。 下まで降りても灰色のターバンの人はこちらを振り向かない。 それどころか、こちらに気づいていない様だ。 「あなたは何者だ?そこで何をされているんですか?」 すると灰色のターバンを着た人は灰色のターバンから顔を出した。 どうやら座り込んでいたらしく、その場で立ち上がったが軽く200cmは超えている。 その大柄な体に髪は茶髪。旅人なのか大きなリュックに道具などがギッシリ詰め込まれている。 鋭い目でこちらを睨んでいるのか分からないが、こちらをじっと見つめてくる。 正直気味が悪かった。 そしてある程度の間が空くと大柄な男が口を開き、何かくると思った騎士は少し身を引いた。 「…スゥ…ハァー…。」 口を開いた男は何か言うのかと思えばただ深呼吸しただけで何も言わない。 何だ、この男は? 目の前にいる大柄な男はただ見つめるだけで何も言おうとしない。 顔もどちらかといえば爬虫類顔であり、正直気持ちが悪いと騎士の人は思った。 しばらく待ってても何も言わない男に騎士は話しかけた。 「俺たちはイフリークの騎士なのだが、ここでなにしている?このクレーターは何だ?お前がやったのか?」 少しキツめの言い方で問う騎士の人。 すると、男はようやく小さな声で答えた。 「…寝て…た。…ふあー……。」 目の前で大きなあくびをする大柄な男。あくびをして眠気が覚めたのか、そのまま言葉を続けた。 「いやー、これくらいの気温がちょうど良くてな。ついウトウトしてたら知らねー間に寝てたわ!」 大柄な男はさっきとは違って満面の笑顔で返事を返した。 この猛暑の中で眠る事が出来るといった化け物に対して気味が悪く感じ、警戒を強くする。 すると大柄な男は荷物を大きな鞄に詰め込み、灰色のターバンを体に纏った。 そして、直径500mの高さ100mあるクレーターを軽くジャンプしただけで飛び越えてイフリークの国民の所まで飛んだ。 国民たちは大柄な男のありえない身体能力に驚いたのか周りの人たちはざわめき始める。 男はそのまま何かを探すかのように国民の人たちを順番に見渡した。 「あんた、何してるんだ?誰かを探してるのか?」 1人の騎士が聞いても大男は反応せず周りを見渡し続ける。 そして、ミーナとエミル目が合うと大男は見渡すのをやめて2人を凝視しながらニヤリと口を開く。 「…悪魔祓い(デビルブレイカー)…」 「えっ?」 「…いや、何でもない。見ての通り俺は通りすがりの放浪者なんだが、それと同時に探してるものがある。その探してるものなんだが、 …悪魔祓いっていうのを聞いていたりしないか?」 その瞬間、大柄な男の周りの空気が変わる。 これは今まで出会った悪魔達と同じ不気味な空気。 それにいち早く気づいたのはミーナとエミルだった。 「悪魔祓い…ですか?確かあの金髪のお嬢ちゃんと一緒にいた…」 騎士団の1人が答えようとするとエミルは咄嗟にその人の口を手で押さえ、そのままうつ伏せになる様に押し倒した。 「ンー!…ンーー!!」 「お、おい!何してやがる盗賊の女!ついに本性を現したな!?」 口を押さえられたまま押し倒され、身動きが取れず必死に抵抗しようとする。 しかし、エミルは一向に離れようとしない。 「このアマ!さっさと退けろ!そろそろ俺たち本気で怒るぞ!?」 「……」 「こいつ…おい、早くこいつを助けてやれ!あの女を退かせろ!」 1人の騎士団の命令で他の騎士達がエミルを退かせようとする。 何故こんな事をしてるのか?傍から見るとものすごく無意味な事をやっている様にしか思えない。 しかし、この無意味な行動がエミルの狙いでもあった。 その理由は この大柄な男に情報をベラベラと渡すのは危険。それを口にした時に何が起きるか分からない。 だからエミルはみんなの注意を自分に向けさせ、情報を与えない様にする為の囮に自ら買って出たのだ。 その事に気付いていたのはミーナとエバルフ、カレン、そしてこの中で一番人を見る能力のあるイフリーク王だった。 エミルの行動に気付いた王は男の前に出て、エミルの行動を無駄にしない様に話しかけた。 「すまないな、我々は数日前に国が壊滅してしまってな。みんな心が荒んでいるんだ…許してやってはくれんかな?」 「…あぁ、そうだったか。あんたは?」 「私はイフリークの国王…いや、今は元国王だな。我々は一刻も早くこの砂漠から抜け出してシルフを目指さなければならないんだ。私にはこの者達を守らなければならない義務があるのでな…すまない、今は先を急ぐのでこれで失礼させてもらわせるぞ。」 イフリーク王がそう言うと大柄な男は急に真顔になり、イフリーク王を冷たい目で見下した。 「あんたって、隠し事するの下手なんだな。」 「えっ?」 そう男が言った瞬間、イフリーク王の背中が男の拳で貫通した。 そしてその背中から大量の血しぶきが飛び散る。 周りの人達は何が起きたのか…突然の出来事に理解が追いつかないまま倒れたイフリーク王の屍を見つめ続けた。 「えっ…今何が…起きたの?」 「イフリーク王が…倒れたまま動かない。…え、これってもしかして…死んじゃったの?」 段々と状況を理解していく周りの人たちに大柄な男は返答した。 「ああ、死んだ。そして、次はお前らも死ぬ番。」 男が言い終わったと同時に周りの人たちの叫び声が響き渡る。 最悪な状況だ。 まさかこんな立て続けに不幸な事が起こるなんて誰も思いもしなかっただろう。 しかも今回は最も殺されてはならない人が殺されてしまった。 国民の怒りを鎮め、長年の生によって得た人の心の奥を見透かせる力を持つイフリーク王。 このかけがえのない人物の死は人の心を簡単に絶望させる要因となるのだ。 大柄な男は自分の拳で貫いたイフリーク王の体をぶら下げたまま言った。 「いいぞいいぞ…もっと叫べ!この男の死がこんなにも影響力を与えるとはな。」 見ると、騎士団の人たちが国民達を鎮めようとするが全く耳を傾けようとしなかった。 「人間は本当に脆くて弱い存在だ。力もなければ心も弱い。こんな奴ら、生きてて楽しいのか?」 大柄な男は周りの人たちの取り乱し様を見て溜息を吐いた。 グサッ! 「…え?」 突然、大柄の男の背中から腹部にかけて剣が貫かれていた。 それは、先程まで無意味な行動を取っていたエミルの剣だった。 エミルは周りの混乱に動じて隠れながら大柄な男の背後まで移動していたのだ。 「残念な男ね…いや、あんたは悪魔か。」 「ほう、俺の存在に気づいていたのか?あの無意味な行動もお前の計算の内か?」 「そうよ、私も嘘つくのは苦手だけどあんたはそれ以上にバレバレだったわ。あんたの三文芝居は。」 そう言ってエミルは剣を抜くと男の右肩から左の腰にかけて切り裂いた。 男は上半身と下半身に分断された状態でその場に倒れた。 しかし、 「クックック…残念だったな、女。」 分断されたはずの男は死なずに、倒れたまま口を開いた。 「俺はこの程度では死なんぞ!貴様らには更なる地獄を見せてやる!」 そう言うと男は上半身に残った左手から謎の灰色の球体を出した。 そして、球体は徐々に広がっていくとその場にいる全員がその球体に飲み込まれてしまった。 灰色の球体に飲み込まれたミーナとエミル達は気がつくとどこかの荒地に立っていた。 「ここはどこですか?さっきまで砂漠にいたのに。」 「全員無事か!?」 エバルフが周りを確認すると、人はいるが誰も返事を返そうとしない。 色んなことが立て続けに起こり、この状況の事なんて気にもとめていなかったのだ。 「クックック…全員、ここに飛ばされてるな?」 先程エミルに分断された男はどういうわけか元の状態で何も無い所から現れた。 「まさか!?何で生きてる!?」 「何でって?そらお前、俺は人間じゃないからだ。俺はキュアリーハートから来た獄魔(デーモン)、ジェイスだ。見ろ、あれは俺たちの故郷のキュアリーハートだ」 獄魔、それは以前エバルフとグレンが戦った時にエバルフを洗脳し、悪魔化にさせようとした普通の悪魔より上級の存在。 そして、大柄な男の状態であるジェイスが指差す東の方には巨大な暗雲が円状に包み込んだ国、キュアリーハートがあった。 どうやらイフリークとシルフの間の砂漠にいたミーナ達はジェイスの灰色の球体によってキュアリーハートより西の荒地まで移動させられていたのだ。 「クックック。ここに飛ばした理由が分かるか?ここは"悪魔達の巣"でもあるキュアリーハート。いざとなれば誰も見たことの無い様な悪魔の大群を数分で呼ぶ事だってできる!どう足掻いてもお前らに勝ち目はねえ!」 「何だと…お前の目的は何だ?何が目的なんだ!?」 エバルフがジェイスに聞く。 「目的ねぇ。俺はただ上からの命令で動いてるだけだ。本当はここに悪魔祓いがいれば良かったんだけど居ねえからな。それに、お前らの主力である騎士団団長と1~9番の騎士長が居ないじゃん。丁度いいから暇つぶしに"人間掃除"でもやろっかなと思ってさ。」 人間掃除。そんな事を平気で言えるのはジェイスに限らず悪魔なら当たり前なんだろう。 「人間掃除…か、果たして掃除されるのはどっちかな?」 「何ぃ……なっ。」 ジェイスは気づいた。 自分の周りに巨大な氷の槍が無数に取り囲んでいる事に。 そして、その氷の槍は一斉にジェイスに襲いかかった。 ジェイスは大量の巨大な氷の槍によって埋め尽くされた。 しかし、ジェイスは悪魔独特の黒い魔力を大量に放出する事で周りの氷の槍を砕いて吹っ飛ばした。 「またあの女か!こんな魔法で俺がやられる訳…」 ジェイスは戦闘態勢に入り、エミルがいる位置を目で確認する。 するとエミルは既にジェイスの間近に接近し、胴体を居合斬りする構えを取っていた。 そのまま居合斬りが決まり、ジェイスの体は腹部を水平に分断され、ジェイスの上半身は下半身から離れた。 「あなたが悪魔なら、弱い魔法なんて必要ない。初めから全力で仕留める!」 そして、エミルは掌をジェイスの離れた上半身に向け、そのまま上半身を水球にして取り囲む。 取り囲み、掌を握りしめると水球は圧縮され、ジェイスの上半身は水圧によって押しつぶされる。 圧縮された水球は次の瞬間、ジェイスの上半身と共に破裂し辺りに飛び散った。 「意外に呆気なかったわね。悪魔の中でも弱かったみたいね。」 「ーそうだと良いんだけどね。」 するとエミルの背後から仕留めたはずのジェイスの声が聞こえ、とっさに振り返るが後ろから羽交い締めをされ、動きを封じられた。 「くっ!…何で、さっき殺したはず…」 「クックック!人間や普通の悪魔なら死んでたけど俺は違ったようだな。さあ、このまま絞め殺してやるぜ!」 ボキッボキキキッ! 「うっ!!あ"あ"ぁぁ!!」 ジェイスはそのまま締め付ける力を強めていき、エミルにとてつもない痛みが襲う。 しかし、エミルはすぐに自分の体を液体に変えてジェイスの羽交い締めから抜け出した。 「あ、この女抜け出し…」 エミルが抜け出し、その隙を見つけたエバルフはジェイスの首を跳ね、そのまま距離を取る。 「油断するな、団長の友人!獄魔は普通の悪魔と違って特殊な魔法を使う!」 「どうも。あんた詳しいのね。」 「まあな!以前そういう奴が居たからな!」 全身液体になったエミルはそのままエバルフの隣まで移動した。 「体は大丈夫なのか?」 「平気!ちょっと痛みはあるけど骨折は治ったわ!」 よく見るとエミルは水属性の回復魔法なのか羽交い締めを受けた時の骨折が治っていた。 「全騎士に命ずる!これからあの悪魔を12騎士長とこの女で討伐する!他の騎士達はイフリークの国民全員を守れ!」 エバルフがそう言うと騎士達は国民の前に立って国民達を守るように武器を構える。 「いいの?あんたじゃ私のサポートしか出来ないでしょ?」 「サポート役で結構だ!とにかく1人であの悪魔を相手にするのは無理だろ。それに…お前がやられたら団長に申し訳が立たないからな!」 エバルフは白い歯を見せる様にニッと口を横に広げてエミルに言った。 エミルはその事を聞いてあの時馬車が崩れて離れてしまった時のカイルの戦っている姿を一瞬だけ思い出した。 下を向きながらフッと笑いがこぼれ、そして顔を上げる。 「そうね。じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ!私を全力でサポートして!そしてあいつを絶対に倒すわよ!」 「任せろ!」 そう言って2人は互いの拳をぶつけて意気投合した。 「何だかよく分からねえが、俺を放ったらかしにしてんじゃねぇよ。」 先程首を切られたジェイスは元に戻った状態で2人の目の前に立っていた。 「知った事じゃないわ。あんたは1人で私たちは2人と数十人の騎士達。あんたに勝ち目はないわ。」 「1人?何言ってんだ、お前は?俺がいつ1人なんて言った?この後ろには俺達悪魔の住処でもあるレッドヘルがあるんだぜ?当然仲間をいつでも呼べる状況だ、1人じゃねえ。それに…。」 するとジェイスの背後から2人の人影が見え、その2人がエミルとエバルフに急接近した。 2人は居合切りで急接近した者を切り裂き、切り裂かれた者は切られてその場に倒れた。 「思わず切ってしまったが何だったんだ?」 2人はその場に倒れた者を見下ろす形で見てみたが、見てみると2人は驚いて距離をとった。 「何で?何であんたがあと2人もここにいるの!?」 その場で切られたのは、目の前にいるジェイスであった。 その場で倒れたジェイスはよく見ると切られた部分を瞬時に再生させていた。 「なんだ、こいつら!?切られた部分が再生してるぞ!」 再生した2体のジェイスは再びエミルとエバルフに襲いかかる。 2人はジェイスの突進を軽くかわし、剣を横に振って上半身と下半身に分断した。 しかし、分断されたジェイスは再び再生するが今度は切られた上半身から新しい下半身、下半身から新しい上半身が再生され、合計4体のジェイスに増えた。 「なっ!?今度は増えたぞ!」 「無駄だ。俺に剣は通用しない。寧ろ強くなるだけだ。」 するとジェイスは自分の懐から小型のナイフを出すと、自分の片腕をそのナイフで切り落とした。 切った腕の部分は直ぐに再生し、切れ落ちた腕はグニャグニャと変形すると新しいジェイスの体に形作られ、再生した。 「俺は損傷した体を再生させる事は見て分かっただろう。だがそれともう一つ、自分の細胞を切り離す事で新たな"分身"を作り出すことが出来る!これは魔法じゃなく、俺自身の能力だからな。当然弱点なんかねえぜ!」 ジェイスは自分以外の分身4体と腕から再生した一体を合わせた5体の分身に向けて指を鳴らした。 すると5体の分身はほぼ同時に動き出し、エミルとエバルフに襲いかかる。 エミルとエバルフは再び剣で対抗しようとするが、先程見たように切ると分身が出来てしまう為、剣は振るわず防御に徹した。 しかし、相手の数が多くなったせいで防御に遅れたエバルフは一体の分身に剣を弾かれてしまう。 「…!?しまっ…」 剣を拾いに行こうとすると分身の拳がエバルフの顔面に入り、エバルフは後ろへ吹っ飛ばされる。 「終わりだ、やれ!分身!」 そして更に指をパチンと鳴らすと分身の腕は巨大な剣に変化し、その状態でエバルフの腹を突き刺そうとした。 「終わりだー。」 バチバチバチバチッ!!!! エバルフを襲おうとしたジェイスは突然現れた一筋の雷を受け、感電しながらその場で動かなくなった。 その雷の主は10騎士長のカレンだった。 「カレン!助かったぜ。」 「油断しないで!あれは一個体はたいした事ない筈だけど、複数で来られたら厄介だわ。要はあの分身を作らせなければ良いのよ。私の魔法なら可能よ!」 カレンは掌から雷を発生させて言う。 「こんな時は、こうするのよ!」 カレンは掌で作った雷の球体を上空に打ち上げた。 その雷の球体は上空で大きくなっていく。 「エミル!あの分身した悪魔を水魔法で囲んで!」 「えっ?…う、うん!分かった!」 エミルは名前で呼ばれた事にビックリしたが言われた通り、水の渦を発生させて分身したジェイスを取り込んだ。 取り込まれたジェイスの分身5体は水の中で悶え苦しむ中、カレンは呪文を唱えた。 「ー雷光、他を貫く矢となれ!」 すると上空で大きくなっていく雷の球体はそのまま見ず魔法で取り込んだ5体のジェイスに直撃した。 直撃した瞬間、水は一気に蒸発した事で水蒸気爆発が起こり、辺りに爆風が巻き起こる。 爆風が治ると、そこには黒焦げの状態で倒れた5体のジェイスがいた。 分身したジェイスは黒焦げになったせいで細胞が死滅したのか再生しなかった。 「な、何!?」 「驚いた?水は電気を良く通すからね。これであんたの再生能力も意味なくなったわね。」 カレンは勝ち誇った顔でジェイスに言い放った。 しかし、ジェイスはそれでも慌てる事なく逆に落ち着いた表情で懐から黒いオカリナを出した。 「意味がないのは貴様らだ人間。今からあのレッドヘルから大量の悪魔を呼び出す。それに、俺は確かに再生能力に特化した悪魔だがそれは魔法じゃねえ。」 するとジェイスは空間魔法で自分の頭上に穴を開けた。 「今から地獄を見せてやるよ。思い知れ…」 そしてジェイスは黒いオカリナを吹き始めた。 すると空間の穴から次々と悪魔が落ちてきた。 落ちてきた悪魔はその瞬間猛スピードで走り、国民達の方へ向かおうとした。 それに対してエミルは先読みしていたのか悪魔の行動より早く動いて対応する。 そして悪魔を見ず魔法で取り囲むとその水を凍らせてから足で踏みつけて粉々に砕いた。 エバルフとカレンも同じように悪魔達を剣で切りつけて倒していく。 「普通の悪魔なら、あんたと違って余裕で倒せるわ。」 「どうかな?」 ジェイスが再び指を鳴らすと、切られて倒れた悪魔は再生して立ち上がった。 「なっ!?まさか、他の悪魔まで再生を…」 「そうだ!俺の魔法は自分の再生能力を他の悪魔に付加させる事が出来る。さあ、お前ら死なねえから思う存分暴れろ!」 そして、時は現在に戻り悪魔による恐ろしい惨劇が始まった。 何度斬り倒しても再生と分裂繰り返す悪魔は徐々に数が増え、エミル達を圧倒していく。 増えた悪魔は他の騎士団達にも襲いかかる。 悪魔独特の鋭い爪で剣を難なく折り、切り裂いて殺していく。 あの時イフリークで起こった惨劇が再び起こってしまった。 これ以上の地獄をどう表現したら良いのか?これ以上、何に絶望したら良いんだ? 何故、何も出来ないまま死の恐怖を味わなければならないのか? この場にいて何も出来ずただ騎士団に守られながら見ている国民達とミーナ。 ー私は、何の為に旅に出たの?何の為にグレンと旅をしたの?私は…何も変わらないままこんなところで死ぬのを待つの? 私は…私は… ーあなたは、どうなりたいの? すると突然、どこからか女性の声が聞こえてきた。 振り返ってみてもその声は周りの人には聞こえていないみたいでどうやらミーナにしか聞こえていないらしい。 すると再び女性の声が聞こえた。 (初めまして、ミーナ。そなたとこうして対話できる日を心から待っておったぞ。) 独特の喋り方でミーナに話しかけてくる声にミーナは戸惑って声を出せていない。 (申し訳ない。妾に伝えたい事を念じてみよ。そうすれば、妾に思いが届く。) ーえっと、こういう風にですか? 普段使わないような事を言う為、理解するのに多少時間が掛かるミーナ。 そして、ミーナは言われたように心に念じながら聞きたい事を声の主に伝えた。 ーあなたは、何者ですか? (妾の名は…そうね、エルとでも名乗りましょう。妾はずっとそなたの中に潜んでいた。それで、妾の質問にはいつ答えてくれるのじゃ?) ー質問…ですか?それって、私がどうなりたいかって事ですか? (そうじゃ。そなたはあのグレンとかいう男と旅をして、どうなりたいのじゃ?何が目的で旅をしておるのじゃ?) エルは真剣な口調でミーナの心に問いかける。 私が、この旅でどうなりたいのか。 正直何も考えてなかった。 いや、勿論グレンの人格を戻す事が私の目標なのだけど、どうすれば戻るかなんて全く分からない。 結局、私は何がしたかったんだろう? 答えが出てこない。 ー今の私じゃ、答えが出てこない…けど、それを探す為に旅をしてるんだと思う。 (何をするか探す旅…なるほど、そなた自身気づいてないようだ。この旅でそなたがする事はもう決まっておる。いや、そなた自身でもう決められておる。これを見よ…) エルがそう言うとミーナの周囲は真っ白の空間に変わった。 「ここは…」 (ここはそなたの精神世界。ここでそなたの旅を始めたきっかけを見せてやろう。) すると真っ白な空間は徐々に変化していく。 「ここは、私の部屋?」 次に変化したのは、ミーナの部屋だった。 そして、その部屋のベッドでうずくまっているのは他でもない自分自身だ。 どうやらこの日はちょうどシェスカ達が学校で暴れてグレンに殺された日。 私は親友を二度も失い、自分の通って居た学校を悪魔に滅茶苦茶にされて絶望していた。 この日の私はずっと泣いていた。 泣いて気づいたら寝ていた。 この日はただ、泣いていた事しか覚えていない。 「これのどの部分に私がしなければならない事が分かるって言うの?」 (そなたはうるさい。黙って見てみるのじゃ) エルに言われてすぐに黙って見るミーナ。 しばらく見ていると目の前に映し出されているミーナは布団を被って眠ろうとしていた。 結局、私がどうなりたいのかなんて分からなかった。 そう思った時、ベットの中で何か声が聞こえる。 「全部……が悪いんだ。」 よく聞こえなかったが、次の瞬間それがハッキリした。 「全部、悪魔が悪いんだ…いつか必ず、私が…私が…排除してやる……」 映し出された私はそう言ってベットの中で眠ってしまった。 今の…私が言ったの? (そうじゃ。これはそなた自身が思っていた事を無意識に出してしまったのだろう。そなたは覚えていなくても、中にいた妾はよう覚えておる。他にもこんな事だってある。) そして再び白い世界が変わり、再びミーナが映し出される。 次は旅に出る当日に、母親に見送られながら走っていくミーナ。 母親は優しく手を振りながらミーナの走っていく後ろ姿を只々見つめ続けていた。 しかし、映し出されたミーナは今まで見せた事の無いような邪心に満ちた表情で。 「はぁ、はぁ、…排除する!…必ず私が、排除する!もう、誰も傷つかない為に…私が必ず!」 そう言って映し出されたミーナはそのままグレンの所へ走っていき、合流したのだ。 この事を本人であるミーナは全く覚えていない。 まるで別の人を見ているみたいな感覚だ。 (どうじゃ?そなたの本当の姿を見た感想は?) 「嘘よ…あんなの私じゃない。私は…あんな恐ろしい顔なんて出来ない…」 ミーナは体を震わせながら映し出された自分に対して否定を続ける。 (まだ認めぬか…そなたはまだ自分を偽るつもりか?) 「…!?偽ってなんか…」 (いい加減にしろ!) 突然エルは甲高い声で怒鳴り、ミーナは反射的に喋るのをやめた。 (良いか?いつまでも偽るでない。そなたは、本当は自分も戦いたいのじゃろ?) その一言にミーナは敏感に反応したが、エルはまだ続けた。 (そなたは旅を始めてから何度も自分の無力さに打ちひしがれている。自分の為に死んでいく人、何も出来ないまま戦いを見てるだけ。私はこの場ではただの足手まとい。そんな事が続き、旅をしても何も変わらない事にそなたは気づき始めた。) 「…何のために、旅をしているのか…。」 エルが言おうとした続きをミーナは続けて言う。 自分がずっと悩んでいた事。それを見通されたかの様に言われた為、ミーナは自然と口が開いたのだ。 ミーナは今までを振り返ってみた。 グレンに初めて会った時から現在まで、自分は守られて今ここに居るのだと。 ロフィスの時も、イフリークの時も、あの砂漠の馬車の出来事も、今ここで起こってる事も。 全部、守られて今を生きてる。 守られて、人が死んでいく。 そんな何も出来ない自分に、私は劣等感を抱いていた。 「私は…いつも守られていたから、いつまでも弱いままの自分が嫌だった…けど、戦いの場に居るだけで私は…足が震えて立たなくなる。本当に弱い、私は本当に何も出来ない。」 ミーナは頭を下げた状態で涙を流し、鼻水をすすりながら話を続けた。 「レヴィアタンの時だって…あんな、最低なことしか言わない奴に言いたい放題言われて何も出来なかった私が…本当に情けない!もう、弱いままの私は、嫌なのよ!」 ミーナは目から溢れ出る大量の涙を腕で拭い続ける。 (ようやく、素直になれたか。それがそなたの本音。では、そなたはこれからどうなりたいのじゃ?) 「私は…これから…。」 強くなりたい。 ミーナの頭からその言葉が浮かんできた。 「私は…強くなりたい。もう、誰かに守られて生き続けるのは嫌だ!今度は私が強くなって、みんなを守る!強くなりたい!その為には…。」 「そなたの気持ちはよく分かった。やっと本心を伝えることが出来たの。」 するとさっきまでミーナの心に話しかけていたエルが目の前に現れた。 ミーナは驚いたが、一番驚いた所は見た目が自分に似ていたからだ。 金髪の長い髪に幼い顔つき。上はオレンジ色の服に膝下くらいの白色のスカートと茶色いブーツ。 何から何までそっくりだった。 「私の…姿。」 「そうじゃ。妾はそなたの姿でしか活動できないのじゃ、今はな。それよりもミーナ。本心を伝えたそなたに妾から褒美をやろう。手を前に出せ。」 ミーナはエルに言われた通り、手を前に出した。 エルはミーナの掌を上に向けさせてからミーナの手を握りしめた。 握りしめた直後、お互いの掌から黄色い光が一瞬だけ放たれた。 「え、何?今の…」 「今、そなたに眠る魔力を解放した。そして妾の力も授けた。」 「私の魔力って、私にも魔力があるの!?」 「当然じゃ。この世界は魔法の世界。全員に魔力が備わってて当然じゃ。中には魔力を持って生まれなかったやつもおるが。そなた、イフリークにいた時と馬車の時に、一瞬だがその魔力が漏れ出た時があったぞ?」 言われてそんな事あったかなと首をかしげるが、よく思い出してみると偶に自分の体から力がみなぎってくる感覚があった事を思い出す。 「そなたが感じた力がみなぎってくる感覚はそなた自身の魔力じゃ。妾はその魔力をコントロールできるようにしてあげたのじゃ。さあ、戦える力は与えた。元の世界へ戻ってそなたも戦うのじゃ。」 「えっ…けど、どんな魔法なのかも分からないのに戦えって言われても…」 「それもそうじゃな。なら、仕方がない。」 エルは人差し指をミーナの額にトンと当てるとミーナはそのまま眠ってしまい、エルは倒れそうになるミーナの体を腕で支える。 「今回は妾が代わりに戦ってやる。そなたはここでゆっくり見物でもしておるのじゃ。」 そう言うとエルの周りの精神世界から元の世界に戻った。 元の世界は時間はあまり変わっておらず、エミル達が悪魔と戦っている最中だった。 「さて、久しぶりの現実世界。楽しませてもらうぞ。」 ミーナの体に憑依した状態でエルは体から光を発した。 「うっ!…」 その光は周囲全体に広がり、辺りで戦っていたエミル達と悪魔は一瞬目を閉じる。 閉じてから目を開けるまでわずか0.1秒。 エルの体は黄色い光に変わり、光は平安時代の貴族が着そうな羽衣に変わっていく。 「お嬢ちゃん、その姿は?」 「今は手が離せんのじゃ。後で聞く。」 そう言ってエルはその場から一瞬で離れ、次に現れたのはエミルの目の前だった。 「あんたは、ミーナ。…ダメ、下がってなさい!あんたが出ても勝てるわけ。」 「…よく見ておくんじゃぞ、ミーナ。この魔力の使い方を。」 エミルの忠告を無視するエル。次の瞬間、悪魔達がエルの方へ襲ってきた。 しかし、エルは慌てる様子などなく掌から黄色い光の球体を展開した。 そして、またミーナに解説しているかの様に口を開く。 「まず、この魔力には詠唱はいらん。この魔力には3つの特徴があるがまず一つ。"広範囲"に影響する光だ。」 すると光の球体から目も開けられない様な激しい光が周囲に放たれた。 その光によって、大量の悪魔達は体が粒子となっていき、再び再生しないまま消滅した。 「今放った光は敵と思った相手にしか作用しない消滅の光魔法だ。ただし、広範囲に影響する光は連続で3回までしか使えない。だから…。」 エルの手から光が発生し、剣に変形させていく。 エルは剣に変形させた光を片手に持った。 「この光は自身の想像力があれば変幻自在に操る事が出来る。今妾が手に持ってる剣のようにな。」 エルは自分の中に眠っているミーナに話しかけているのか、一つ一つ丁寧に説明していく。 すると、広範囲の光を浴びなかった他の悪魔がエルに再び襲い掛かってきたが、光の剣で対抗する。 光の剣は振るとライトセイバーの様に伸縮し、斬られた相手はその部分から徐々に消滅していく。 そして、剣を振った直後に補助作用として光が発生し、その光によって斬られていない近くにいた相手も消滅していく。 エルはそれを何度も繰り返し、更に悪魔を消滅させていく。 (凄い…私達があんなにも苦戦していたのにこうも簡単に…しかし、あれは本当にミーナなの?)」 先程まで苦戦していた悪魔達が簡単に消滅していくのを見て思うエミル。 エルは光の剣で悪魔達を切り裂いていき、残ったのは僅かな悪魔とジェイスだけだった。 「ば、馬鹿な…あれだけの悪魔をたった1人で…くそぉ!!こうなればあの手で…」 ジェイスが何かを始めようとする前にエルの着ている光の羽衣が更に輝き始めた。 「これで2つの特性を教えたぞ。"広範囲に及ぶ消滅の光"と"変幻自在に形作れる光"。そして、最後の特性。それは、超越した光…。」 そう言うと羽衣の輝きが収まり、普段見えないはずの日の光が羽衣の周りを覆っているのが見える。 エルを覆っている光は更に周囲にも影響し、太陽から放たれる日光も見えるようになると日光は羽衣へ吸収されていく。 まるで光の魔力を高めているかのようだった。 「最後の特性は、日光と月光。それぞれの光を吸収し、光の魔力を高める事が出来る"身体強化"じゃ。今は昼じゃから太陽…陽光の女神(ようこうのめがみ)じゃ。」 エルの羽衣は日光を吸収した事により羽衣は夕日の様な橙色に変化し、髪も金髪からそれに見合う橙色へと変化する。 そして、エルは掌に橙色に輝く光の魔力を一瞬で溜め、それをジェイス目掛けて放出する。 「ぐおぉお!!」 ジェイスは光の光線をもろに受けると日光の影響で体は燃焼していき、燃焼しながら消滅していくため再生出来なかった。 そして最後にエルは上空に巨大な橙色の光球を消滅していくジェイス目掛けて放ち、ジェイスは跡形もなく消え去った。 「すっ、凄え…あの悪魔達を…たった一瞬で…。」 「あれが、あのミーナちゃんなの?まるで別人…」 あまりの強さにエバルフとカレンは互いに口を開く。 「けど、本当に良かった…俺たちは…勝ったんだ。代償はデカかったけど、団長と紅の悪魔祓い無しで俺たちは…勝ったんだ。」 勝利はしたが、他の殺された人の事を思うと素直に喜ぶ事が出来なかった。 エバルフは浮かない表情で言うとその直後、国民達が歓声を挙げた。 「うぉおおおおお!!!!」 「よくやってくれたぞ!騎士団!俺たちを助けてくれて本当にありがとう!」 「お前らがいなかったら、被害はもっと大きかったはずだ!今まで役立たず扱いして本当に悪かった!」 「例え俺たちの国が無くなっても、イフリークの騎士団は俺たちの誇りだ!」 国民達も気づいた。今まで自分達が平和に過ごせていたのは、守ってくれる人達がいた事。 そして、今さっき悪魔達と命をかけて戦っていた姿を見て、今まで自分達の言ってた事がどれだけ自分勝手だった事なのか。 この場にいる人達は、守られた事で気づかされたのだ。 今までの様に助けられるのが当たり前だと思うのでなく、助けられたからこそ感謝する事を。 それが、命を張って戦ってくれる騎士団に対する恩返しに繋がる。 騎士団の人たちはこの光景を見て嬉しくて泣く人や照れて顔を隠したりしていた。 エミルはその光景を少し羨ましそうな表情で見ていたが、今気になるのはミーナの事だった。 突然使える様になった魔法。悪魔を一瞬で倒す程の強さ。そして何よりも、ミーナの雰囲気がいつもと全然違っていた。 まるで、別の人の様な。 エミルはミーナの近くまでゆっくりと足を運ぶ。 「…大丈夫なのか?」 ミーナはあの魔法を放ってから微動だにせず、その場に立った状態でいた。 そして、ミーナ…いや、雰囲気の違うミーナはゆっくりと口を開く。 「…まだ、この者では真の力は発揮できないか…妾は全てを伝えたから、後は自身で真の力に…」 そう言うとさっきまで着ていた光の羽衣が消えて普段の姿に戻るとミーナはその場に倒れてしまった。 「ミーナ!」 エミルは倒れたミーナを揺さぶるが意識を失っていた。 他の人達もミーナが心配で近くに寄って来た。 「何だよ~。そこの女倒れちまってるじゃん!」 すると、目の前に逆立った黒髪と鋭い目つきに赤と黒の派手なコートを着た男性が立っていた。 その男性は一見普通の人に見えるが、周囲に漂う魔力が異常に高く邪悪そのものだった。 「この魔力…さっきの悪魔と同じ…いや、明らかにレベルが違う!」 「ほう、さっきの悪魔ってのはジェイスの事か?成る程…どうやらあいつはお前らにやられちまった様だな。」 すると男はエミルの方を向いて言った。 「この中だったらお前が一番魔力が高いな。成る程、レヴィアタンが目をつけただけの事はある。」 「あんた、あの悪魔の事知ってるの?」 「あぁ、一応な。一応あいつは俺たちと同じく七つに分断されし悪魔の1人だからな。」 覚えているだろうか? その男は、あの元キュアリーハート。通称レッドヘルでPDOをイフリークに送る事を命じた男。 そう、イフリークをあの様な姿に変えた元凶の男。 「俺は七つに分断されし悪魔の1人。憤怒の悪魔・サタンだ!さぁ、そこにいる女をよこせ!」 サタンと名乗った悪魔はミーナを指差して言った。 「急に何言ってやがる!渡すわけないだろ!」 エバルフが割り込んで言うとサタンは笑いながら言った。 「いーや、お前らは渡す運命にあるぜ?何故なら、そいつを渡せばここにいる全員を助けてやる!だが、渡さなければここで全員死んでもらう!」 サタンの唐突過ぎる交渉に戸惑うが、確実に理解出来た事がある。 こいつと戦えば確実に死ぬ事。 それは、戦闘の経験のない一般の人達も本能的に分かっているのか誰一人口を開こうとしない。 何故なら、人は自分さえ生き残れれば良いという考えを少なからず持っているからだ。 それは心に余裕がある場合理性で何とかその心情を抑える事が出来る。 だが、圧倒的な力の前ではこんな交渉でも乗ってしまい自分だけでも助かりたいと、その様な考えに至ってしまう。 人間はこの様な場面になると高確率で本性を現す。 それが悪なのか、善なのか。誰かが責める事は決して出来ないのだ。ライクとニケルは城の裏側にある人気の無い場所へと移動した。 後ろから尾行していたロゼアは壁に隠れながら、ライクとニケルが話をしているのを覗き込んでいた。 …側から見れば只のストーカーにしか見えない。 壁の向こうではライクから先に声を掛けていた。 「で?どうしたんだよ。さっきも、お前一言も喋らなかったし。」 先程の会話でも、ニケルは浮かない顔をしながらグレンやグロードの話を聞いていた。 その理由は。 「…僕達とグロードさんの関係って、これからどうなるのかなと思って。」 「グロードとの関係?」 何を言ってるのか分からないライクだが、ニケルはそのまま説明を続けた。 「大恩あるグロードさんの事を、僕はずっと亡くした父親の様に思ってた。本当の父親じゃ無い事は分かってる。だけど、まるで親子みたいな今の関係性が僕は好きだったんだ。」 「けど、生き別れた本当の息子であるグレンが戻って来たら、もうそんな関係には戻れないのかなって…。」 ニケルの悩み。それは本当の息子であるグレンが戻ってきた以上、自分達はグロードの息子の代わりにはなれないという事である。 また今までの関係性も変わってしまい、もうグロードに相手にされないのでは無いかという不安もあった。 「勿論、グレンと再会出来た事は僕も嬉しいけど。…やっぱり良いな。本当の親が生きてるのって。」 月の民殲滅戦で両親を亡くしてるライクとニケル。特にニケルは子供の頃は甘えん坊であった為、親への未練はライクよりも強い。 親の居ない2人にとってグロードは父親同然。しかし、本当の父親になる事は出来ない。 そう思うとニケルは、少し寂しく感じていた。 それに対してライクは。 「ニケル…お前の言う様に、あいつは俺達の父親じゃねえし、俺達があいつの息子代わりになる事も出来ねえ。」 「……」 「でもよぉ、俺達とグロードとの関係性は何も変わらないと思うぜ。」 「…え?」 落ち込み俯いてたニケルはライクの顔を見た。 「俺もあいつの事は父親みたいに思ってたけど、どっちかと言えば師匠に近い感じだな。それに、あいつは面倒見が良くて、いつも丁寧に俺達の修行に付き合ってくれた。」 「優しい奴だからさ、例え息子が居ようと俺達との師弟関係まで変わる事はねえよ。」 「ライク…
魔導兵器ラウスを倒した事と、北の軍事兵器もグロードが破壊した事により、北の大国が今後攻撃してくる事は無いだろう。北の大国は多くの軍人と軍事兵器を失った事により、いずれ国の財政が崩れ破綻に追い込まれる事となる。戦う力を失った北の大国ウンディーネは結果的に敗戦国となり、これにより東北魔導大戦は事実上終結する事になる。しかし東の大国も無傷という訳にはいかず、今回の魔導兵器ラウスとの戦闘によって沢山の死傷者が出ていた。それだけではない。東の大国の主戦力が戦っている間、手薄になった城内にて更なる事件が起こってしまう。ノーム王の暗殺。戦いが終わった後、城内へ行くとそこは戦場と同じくらい凄惨な状況となっていた。医療班の人も殆どが殺されており、警備の者達に関しては、肉体が残っていれば運が良かったと思えるくらいバラバラに殺されていた。一体誰が実行したのかは不明。しかし、こんな事をするのは1人しか居ないとグロードは気付いていた。「…ベリエル!」見たところ胸部を刺殺(しさつ)されて殺されている様に見えるが、医療知識が豊富なグロードはノーム王の身体を少し触れただけで他の殺害方法で殺されたのだと判断する。「…内臓が全て潰されている。まるで身体の中をかき混ぜられたかの様に……許せない。」あまりにも残酷な殺し方をされている為、グロードは沸々と怒りを覚えた。この場には他にグレン、ミーナ、エミル、ライク、ニケル、フィナ、ネル、そして八握剣(やつかのつるぎ)のギンジが居た。カイルとロゼアとアルバスは意識を取り戻したが、戦いで受けたダメージが大きく、今は休んでいる。他の八握剣(やつかのつるぎ)も同様に、命に別状は無いが大掛かりな治療が必要な状態である為、カイル達同様にこの場には居なかった。ノーム王が殺されている姿を見て先に悲しんだのは、当然八握剣(やつかのつるぎ)のリーダーであるギンジであった。「ノーム王…くっ…何で、こんな事に!」ギンジは両手を握りしめ、悔しさと悲しみで顔を横に向きながら涙を流していた。王の懐刀である八握剣。そのリーダーともあろう者が他のメンバーを救えず、更には王の命さえも守る事が出来ず、ノコノコと生き残ってしまった。ーー俺のせいで…役立たずにも程がある!しかし、それに対してミーナが。「ギンジさん。自分のせいだなんて思わないで下さい。皆んな
そして更に4年後。ラウスは18歳になり、ルーファスは9歳となる。ラウスは高校3年の学年となり、全ての成績において優秀な成績を収めていた。幼い頃から教えられた事は殆ど完璧にこなすその姿を見て、いつしかラウスは神童と呼ばれ将来を期待される様になる。しかし、ラウスは魔法を仕事にする道は選ばずそのまま農作業を営み続ける道を選んだ。当然教師はラウスを説得するもキッパリと断った。自分の将来の夢よりも、ルーファスの側にずっと居る事の方が大事だったからである。こうして学生の頃はそれなりに有名だったラウスは、突如として公の場から姿を消したのだ。一方、ルーファスもラウス同様に成績が良かった。ラウスが合間を縫って勉強を教えているのもあるが、どうやらルーファスも少し教えればすぐ覚える事が出来るのだろう。「(流石は俺の弟だな。)」勉強を見ていたラウスは心の中でルーファスを誉めていた。ある日、ルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の写真が飾ってある仏壇を見て質問してきた。「兄さん。この人達って、僕達とはどういう関係なの?」あの頃、まだ赤ん坊だったルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の存在を知らない。「この人達はね、俺達の親みたいな人だよ。本当の親じゃ無いけど、親のいない俺達の面倒を見てくれた人だ。」亡くなった老夫婦の事をラウスは自分の親だと思っており、ラウスにとっては生きていく術を教えてくれた恩師でもあった。「そーなんだ。…じゃあ、僕達の本当のお父さんとお母さんは?」1番聞かれたく無い質問をルーファスは悪気なく聞いてくる。当然である。ルーファスは親の事を何も知らない為、本当の親が気になるのは当然の事。…そっか、あの時お婆ちゃんはこんな気持ちだったんだ。そりゃ、言いたく無いよね。ラウスはルーファスに聞かれた事により、あの時のお婆ちゃんの気持ちが少し分かった。あの時から親の事はあまり思い出さない様に生きてきたラウス。正直、あまり親の事を聞かれても何て言ったら良いのか分からなかった。只、ラウス自身が抱いてる気持ちとして言った。「…ロクでも無い人達だよ。父親は俺と母親を置いて出て行き、残された母親も親の責任を放棄して出て行った。」まだ子供に言うべき事では無いのだろうが、ついつい自分の感情任せに言ってしまったラウス。「そうなんだ。…でも僕、少し会
お母さん…何で帰って来ないんだよぉ…。俺1人でどうしたら良いの?どれだけ待っても帰って来ない母親のヒスイ。既に半日以上待っていたのだが帰って来る気配が無い。ラウス自身、半日以上何も食べていない為、空腹が限界を通り越していた。「おぎゃー!!」泣き叫ぶ弟のルーファス。生後3ヶ月の赤ん坊。お腹も空くし、オムツもしてるから替えてあげないといけない。その他にも、身体を清潔にしないといけない。…どうすれば…。ラウスは寝室で泣いているルーファスの所へ行き、様子を見た。「おぎゃー!おぎゃー!」「凄く泣いてる…こんな時、お母さんどうしてたっけ?」ラウスは普段、母親がどうやってルーファスの世話をしていたのか思い出していた。そしてヒスイが何をしていたのか思い出したラウス。「…まずは、オムツかご飯か。どっちかだけど…嫌だなぁ、オムツの匂いを嗅ぐのは…」それでも我慢してオムツの匂いを嗅ぐラウス。「…多分こっちじゃ無いか。じゃあミルク作らないと。」ラウスは台所にルーファス用のミルクが保管されている所を覚えていた為、そこに行ってミルク粉と哺乳瓶を取り出す。「えっと…先にお湯を温めるんだっけ?」初めての事でどうすれば良いか分からないラウス。しかし、取り扱い説明書があったので、それを見ながら何とか作って哺乳瓶に入れる事が出来た。「よし!後は水で冷まして…よし!」人肌まで冷まし、ラウスはそれをルーファスに飲ませる為、ベッドから起こした。「おーよしよし!ミルクだよ〜。」ヒスイが言ってた様に真似しながら、ルーファスにミルクを飲ませてあげるラウス。ルーファスは勢いよくミルクを飲んでおり、よっぽどお腹が空いていたのが見て分かる。半日、何も食べなければ大人でもお腹が空くに決まってる。「俺も何か食べないと…。」そう言ってラウスは戸棚にある非常食を取り出し、空腹を埋める為にそれらをお腹に詰め込んだ。見たところ、非常食やミルクの量から数日は持つだろうと判断した。しかし、この食料が無くなったらどうしようかと。ラウスはそれが恐怖で堪らなかった。「どうすれば…後、お金だけど。お母さんの貯金でどれだけ過ごせるのか…。」勝手にお金を使う事に抵抗感があるも、生きる為には仕方ないとヒスイが管理してる通帳を確認する。子供では見た事の無い数字に驚くラウスであったが、実際の
真っ暗な暗闇の中。1人の女性が下を向きながら何かを覗き込んで泣いていた。「…ラウス……ルーファス……どうして、こんな事に…。」その女性はヒスイであった。ここは死後の世界であり、この暗闇の空間は死後の世界へ行く前の道。死後の狭間である。ヒスイは死後の世界へは行かず、死後の狭間にある暗闇の空間で家族を見守りながら待ち続けていたのだ。そして現世を見ながら自身の息子達が戦う姿を見て涙を流していた。すると後ろから。「…2人が戦っているのか?」その声の主はヒスイの父親であり、グレンに龍技の真髄を教えた竜の民のドグマであった。後ろからドグマに言われたヒスイは、涙を流しながら振り返る。「…お父さん。」「ヒスイ。…お前も辛いのは分かるが、今の俺達には見守る事しか出来ない。」そしてヒスイの隣に座り、現世で戦うグレン(ルーファス)とラウス。2人の戦いを覗き込む。「信じるしか無い。グレン…いや、ルーファスの事を。そして、あいつの強さを。…きっとあいつが兄を救ってくれる筈だ。」ヒスイはグレン(ルーファス)が生後3ヶ月の時にこの世を去った。ドグマもヒスイが家を出てから、自分に孫が居る事も知らずに30年間虚しく過ごしてきた。しかし、その孫であるグレン(ルーファス)は偶然にもヒスイの父であるドグマと出会い、龍技の真髄を教えてくれた。運命が知らない内に引き合わせてくれたのだ。そして今、ドグマに教えられた龍技の真髄によりグレンは、魔導兵器となり殺戮の呪縛に囚われた兄ラウスを救う為に戦っている。自分の弟子であり、孫でもあるグレンをドグマは信じていた。「(グレン。お前の生き様を、今こそ見せてくれ。)」ドグマの墓前で言ったグレンの誓いに対し、心の中で返答した。信じる事しか出来ないヒスイとドグマは、ラウスとルーファスの行く末が少しでも救われる様に、両手を合わせて祈る。あの世でヒスイとドグマが見守る中、現世ではグレンとラウスの死闘が繰り広げられている。戮力体竜変(りくりょくたいりゅうへん)によって竜人化したグレンは先程とは違い、身体機能が大幅に強化される。自然魔力を体内に取り込む戮力体竜変。それにより身体に現れた竜の鱗は鋼をも上回る強度を誇る。その拳でラウスの胸部を殴る。バコォォォン!!!グレンの拳により、ラウスの硬い胸部は拳大の大きさに凹んだ。グレ
ミーナ達はネルの空間移動でカイルやエミルの救出に向かっていた。エミルはアルバスとロゼアを氷で作った台車に乗せて運んでいたが、その途中で見つけられる。意識を失っていたアルバスとロゼアはミーナの光の回復魔法によって意識を取り戻した。「あれ、ここは…。」目を覚ましたロゼアはゆっくりと目を開ける。「お、気が付いたか!大丈夫か!?」視界に入ってきたライクは心配そうに声を掛け、その声で徐々に意識がハッキリしてきたロゼア。「え…何で…?ライク?」「ああ。俺達は丁度さっき戻ってきた所だ。大丈夫か?」「…心配、してくれてるの?」今まで北の大国では心配される事の無かったロゼア。半分信じられないといった感じでライクに聞いた。「ああ。お前も俺達の代わりに戦ってくれてたんだろ?俺達が不在の中、良くやってくれたぜ。本当に感謝してる!」ライクは笑顔でロゼアに言うと、ロゼアは嬉しさで左目からジワッと涙が溢れてきた。ライクの笑顔を見れて良かったと、安心していたのだ。ネルも同様に、目を覚ましたアルバスに一言声を掛ける。「…僕との約束、ちゃんと守ってくれたね。」「…ごめん。倒す事は出来なかった。」「仕方ない。後はあの男(グレン)に任せよう。」短い会話ではあるものの、ネルは約束を守って戦ってくれたアルバスに感謝した。そして次はカイルの所にも空間移動した。転移した場所でカイルはボロボロの状態で倒れていた。ミーナとニケル。2人の回復魔法を使ってようやく意識を取り戻したカイル。普段タフなカイルであるが、意識を取り戻してもその声はか細く弱々しかった。「…みんな…帰ってたのか?…」「カイル君!エミル、カイル君が目を覚ました!」意識が戻った事を確認したミーナは慌ててエミルを呼んだ。エミルも慌てながらカイルの顔に近づいた。「カイル!」「エミル…良かった…無事だったのか…。」「馬鹿!いつもいつも!自分の事を後回しにして!本当に馬鹿!」ボロボロと涙を流しながらカイルに対して言うエミル。それに対してカイルは一言。「…ごめんな。」そうエミルに言うと、エミルは更に号泣しながらカイルの胸元で泣きじゃくった。「カイル君。連絡してくれてありがとう。今ね、グレンが戦いに行ってるの。」「グレン…そうか。なら、安心だな。」そう言うとカイルは安心した様に目を閉じて眠った
そして現在、俺はこの国の危機を守らなければならない!そのために俺が…俺が…!! 「うわぁぁぁぁぁあ!!!!」 カイルが思いっきり剣を振ると黒い根っこは根元から一気に切り落とされ、切られた部分が霧散していった。 多少時間を稼げるが再生を続けるこの黒い根っこは10秒もあれば元どおりの状態に戻れた。 「このままじゃ…このままじゃ…」 諦めるな!カイル! エミルの声が頭の中で蘇った。 「そうだな、よし!俺も本気出さないとな。」 するとカイルの剣が黒く変色し、瞳が黒から赤く変わった。 「一発で止めてやる!」 カイルは縦に思いっきり振ると根元まで一直線に切れていった
グレンの魔力が溜まるまであと2分をきったがカイルにしてみたらこの時間は非常に長く感じた。 腕の筋肉が痙攣しすぎて既に感覚が無くなっていた。 「あともう少しだけ持ち堪えろ、騎士団の団長。あと少しでこの悪夢を終わらせてやるよ。」 「たの…むっ!」 しかし、黒い根っこは時間が経つに連れて再生するスピードを上げてくる為どんどん追い込まれていくのだった。 だめだ…追いつかない! そう思った時、カイルの頭の中で声が聞こえた。 「あんたって、すぐ諦めるよね。なっさけないなー!」 その声は綺麗な声であるが口が悪く少し男勝りな感じがした。 そして頭の中でその声の主を連想させた
「うわぁぁ!もう2人ともなんでこんなに強いのよぉ!」 この2人の衝突に巻き込まれたくないミーナは建物の陰に避難した。 2人は剣を交じり合わせながらお互いを褒めた。 「俺の双剣を直で受け止めた人はもしかしたら君が初めてかもしれないね。」 「お前も、俺の剣を受け止めるとは中々だな。」 「それは光栄だね。じゃあこれはどうかな?」 カイルは一旦グレンから離れると横一直線に2つの剣を振った。 するとグレンのそばにあった建物が斬れて上からぐずれ落ちてきた。 その建物の残骸を刀で真っ二つにし、再びカイルに近づこうとした。 「俺がこんなヤワな攻撃でダメージを与えれるわけない
血だらけの悪魔に対してカイルは1つも攻撃を喰らっていないため、無傷だった。 そして、悪魔はあることを思い出した。 「お…思い出したぞ!お前は、イフリークの守護神だな?」 「……」 カイルは返事を返すことなく、コクっと頷いた。 「まさか、神級魔導師が相手とは。だが、このPDO(プロジェクト・デビル・オペレーター)の俺が負けるなどありえない!」 そしてPDOは地面に手を置くと周りに地割れが起こった。 カイルとミーナはあまりの揺れに体制を崩しそうになった。 「お前の魔法は影だ!その影を無くしてやればお前は何もでき…」 すると悪魔の背後から別の影が発生した。 そ







